進々堂の洋菓子作り

はじめに...

進々堂の洋菓子作りについて、進々堂洋菓子を監 修していただいている松谷治代先生にお話を伺いました。 「パンのお話」編集担当(K)と松谷先生との対話形 式でお送りいたします。

松谷 治代先生 プロフィール
パリ生活10年のフランス菓子エキスパート

大阪阿倍野「辻製菓専門学校」卒業。 教員として勤務後、フランスに渡り オレンジ・リキュールの老舗グラン マルニエ社のパリ本社に勤務。同社で M.O.F.パティシエ、ニコラ・ブッサン氏 の製菓技術アシスタントを勤める。 日本に帰国後、学校法人原田学園 広島 酔心調理製菓専門学校の講師を務めるかたわらコンサルタント として、また来日フランス人パティシエの通訳として活躍中。

進々堂の洋菓子作りについて
ベーカリーが目指すべきお菓子とは…

K:松谷先生の目から見て、進々堂のようなベーカリーが目指すべき洋菓子はどのようなものだと思われますか?

松谷先生:何よりも「親しみやすさ」が大切なのではないでしょうか。

K:「親しみやすさ」ですか。

松谷先生:ええ。進々堂の洋菓子は、洋菓子専門店に並ぶきらびやかなオートクチュール、というよりもごく日常的に食べていただきたい、普段使いのお菓子であるべきだと思います。洋菓子店に並ぶお菓子が、ブランド品だとすると、ベーカリーのお菓子は、質のいい自然素材でハンドメイドで作られたお洋服のような着心地のよさを目指したいですね。

↑フランスのブーランジュリー
パティスリーに並ぶタルト。

K:なるほど、イメージしやすい例えですね。確かに進々堂のお菓子は、焼きっぱなしの、素朴なお菓子がほとんどですね。だからこそというか、普段使いしやすい。洋菓子屋さんの洋菓子は特別な時に食べることが多いですが、それに比べて気楽に手が伸びますよね。

松谷先生:そうですね。フランスの質のいいパン屋さんに日常的にパンを買いに来られる常連さんがふと手を伸ばしたくなる、そういう親しみやすいお菓子だと思います。先日発売されたマカロンも日常の中でパンと一緒に買って気軽に食べてほしい、そんな思いで作りました。

↑直径約7cm。自家製バタークリームをサンド。

K:うちのマカロンは一般的なものよりかなり大きいですよね、なぜあえてあの大きさなんですか?

松谷先生:フランスでよく見かける自分食べ用があのサイズなんです。それを日本でも広めたかったから、なんですよ。

K:へぇ~!マカロンって特別なお菓子というイメージを持たれがちですが、ぜひ自分食べ用にしてほしいですね。

松谷先生:そうですね。進々堂は「ブーランジュリーパティスリー」のスタイルじゃないでしょうか。

「ブーランジュリー」と「パティスリー」の違い
パティスリーにも2種類ある?

松谷先生:フランスの洋菓子は大きく2 種類に分けられます。パティスリーのお菓子とブーランジュリーパティスリーのお菓子。進々堂の洋菓子は後者だと言えますね。

K:洋菓子店が作るお菓子とパン屋さんが作るお菓子の2種類、ということですか?

↑フランスのブーランジュリーパティスリー。
パンと一緒に洋菓子が並びます。

松谷先生:ん~惜しいですね。順に説明するとまず、「パティスリー"pâtisserie"」とは...フランス語で"お菓子屋"。要するに、「菓子を作って販売する場所」のこと。ケーキ以外に、チョコレート、アイスクリーム、砂糖菓子などを扱っていることもよく見られるんですよ。

K:へぇ~日本人が普通にイメージするケーキ屋よりも、フランスのパティスリーはより広く商品を扱っているんですね。

松谷先生:対して「ブーランジュリー"boulangerie"」は...

K:パン屋さん!!

松谷先生:そう、フランス語で"パン屋"のこと。特に「職人が小麦を選び、そこから焼き上げたパンをそのまま売る店」という意味合いが強いですね。

↑パン以外に、サラダやデザートなど
幅広い品揃えのブーランジュリーも。

K:とすると、ブーランジュリーパティスリーとは"パン屋兼お菓子屋"という意味ですか?

松谷先生:その通り。パン屋さんにケーキが並んでいるのは、日本ではあまり馴染みのないの光景かもしれませんがフランスのパン屋さんはお菓子屋さんを兼ねている所が多く、パン類とケーキ類が一緒に並んでいたりするのは珍しくありません。パン屋さんへバゲットを買いに行って、ついでに一緒にタルトも買うなんて光景はごくごく当たり前なんですよ。

K:パン屋だけど洋菓子も売っている...まさに進々堂じゃないですか!

松谷先生:そう。だから進々堂は「ブーランジュリーパティスリー」のスタイル。しかもここまで洋菓子に力を入れているパン屋さんなんて日本では珍しいんじゃないかな。

K:なるほど。本格的なフランススタイルだったなんて驚きました...

ミニコラムフィナンシェと マドレーヌってどう違うの?

主な違いは材料

大きな違いはその材料にあります。フィナンシェは「卵白」を使っているのに対し、マドレーヌでは「全卵」を、さらにフィナンシェは「アーモンドプードル」入りですが、マドレーヌには基本入っていません。またフィナンシェには「焦がしバター」を使いますがマドレーヌは「溶かしバター」を使っています。よく味わってみるとその食感や風味の違いにも気がつきます。

フィナンシェ マドレーヌ
材料 薄力粉・砂糖・卵白・アーモンドプードル(粉末状にしたアーモンド)・焦がしバター 薄力粉・砂糖・全卵・ベーキングパウダー・溶かしバター
フィナンシェ
平たい長方形の焼型を使うことが多い
金の延べ棒がモチーフ
マドレーヌ
貝の形をした焼型(カップケーキのようにして焼くことも)
ホタテ貝がモチーフ
アーモンドの甘さと焦がしバターの風味 バターの風味が甘く香り、しっとりとした食感

※基本的な材料と一般的な味や風味であり、店それぞれにオリジナルがあるので一概には言えません。

それぞれの由来 どちらもフランス生まれです

フィナンシェ
「フィナンシェ」という言葉には「金融家」「お金持ち」という意味があります。パリの金融街周辺のお店が発祥の地とされているため、その名が付いたと言われています。形も金のインゴット(金の延べ棒)に似ているため、金融街で働く人が名前を連想したという説もあります。誕生のきっかけは、パリの菓子職人が、近くにあった証券取引所に通う忙しい金融家のために、"背広を汚さず、大急ぎで食べられるような"お菓子を考えたことから。

マドレーヌ
ベルサイユ宮殿でも人気になり、それから1760 年頃にはパリ中に広まったそう。由来には諸説ありますが、有名なのはフランスのロレーヌ地方の首領レクチンスキーが晩餐会を開こうとしたところ、菓子職人が仲間と喧嘩して出ていってしまい急遽、料理上手の女中がお菓子を作ったところ、レクチンスキーが気に入り、女中の名前をとりマドレーヌと名付けたという説です。

こだわりについて
本物の洋菓子作りを追求しています

K:松谷先生は、進々堂の洋菓子はどのようなところにこだわるべきだと思われますか?

松谷先生:そうですね...まずは、一つ一つ丁寧にハンドメイドする、というところではないでしょうか。

↑フルーツケーキ。
ぎっしりドライフルーツとナッツが入っています。

K:はい、確かに。菓子工房という洋菓子専門の工房で手作りしていますね。

松谷先生:あとは、素朴だけれど材料はよいものを使っている。材料へのこだわりも大切にしたいですね。

K:そうですね、材料は厳選した上質なものを使っていますよね。バターや、マダガスカル産バニラビーンズ、ドイツ リューベッカ社のマジパンとか。

松谷先生:ただ高級な材料を使ったからといって美味しいものができるとは限らない。商品に適したもの、イメージに合う味になるものを見極めた上で選ぶことですね。

K:例えば...?

松谷先生:フルーツケーキに使っているドライフルーツはそのいい例ですね。市販のドライフルーツミックスは使われていません、自社でブレンドします。全体の味のバランスを考え、ラム酒漬けのレーズン(2種ブレンド)、ドライクランベリー、くるみを入れ香ばしさと食感を出し、オレンジピールで爽やかな酸味をプラスしています。パン屋さんが販売するパウンドケーキでなかなかここまでしないんじゃないでしょうか。

↑人気定番商品のチーズケーキ。
チーズのまろやかな酸味となめらかな口どけ。

K:確かに手間がかかっていますね。

松谷先生:味の面では、コクを出すためにマジパンを入れて味に奥行きを加えました。

K:見えないところにそんな工夫が!

松谷先生:手間をかけているといえば、タルトだってそう。タルトのクッキー生地は空焼きをしています。そうすることによってクリームやフィリングを生地に流込んでもサクサクの食感が保たれます。

K:なるほど。サクサクの秘密がそんなところにあったとは...

松谷先生:他には渋皮マロンのタルト(※季節商品のため休止中)や、チーズケーキにもこだわりました。渋皮マロンのタルトのクリームは、クリームにマロンを刻んだものを入れ、とことんマロンの風味を感じさせるものに仕上げています。チーズケーキのトッピングのクランブル(そぼろ)にもチーズを加えることによって、よりチーズの味わいが感じられるようにしています。次に発売する季節商品のオレンジとグレープフルーツのタルトも、フレッシュのオレンジとグレープフルーツを1房1房手で剥いたものをのせて焼き上げています。

K:仕入れた材料をそのまま使用するのではなく、一手間かけるのもこだわりの一つですよね。マカロン苺に使われている苺バタークリームも苺ジャムから自家製ですよね。

松谷先生:そうです、自家製にこだわるのが進々堂スタイルですね。あとは...日持ちをさせるための保存料は使用していない、というのもポイントですね。

K:素材の素直なおいしさをだすために余計な添加物は使っていません!

松谷先生:その分デリケートなので、おいしいうちに早めに召し上がってくださいね。

松谷先生と進々堂の出会い
洋菓子の本場フランスがつないでくれた縁

K:ところで、松谷先生が進々堂の洋菓子を監修されるようになったきっかけは何だったのですか?

松谷先生:2008年に進々堂の続木社長が日本のパン業界団体のフランス旅行を企画なさった時にガイドを務めさせていただきました。それをきっかけに続木社長と色々と情報交換をするようになり、帰国を機に進々堂の洋菓子作りに携わることになったんですよ。

K:そういう経緯があったのですね。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。松谷先生、どうもありがとうございました。

松谷先生:はい、これからも進々堂のスタッフのみなさんと一緒にフランスのブーランジュリーパティスリーに負けないおいしい洋菓子を作っていきます。

まとめ

進々堂は「ブーランジュリーパティスリー」スタイル。
日常的に楽しめる洋菓子作りを目指しています。